山形地方裁判所 昭和43年(ワ)12号 判決 1970年4月14日
原告
伸山利弥
代理人
皆川泉
被告
横山丈三郎
外四名
被告ら代理人
設楽作己
主文
原告の、被告らに対する請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実《省略》
理由
《前略》
第二、横山丈三郎に対する請求について
一、本件建物が、被告横山丈三郎及び訴外渡辺昭一、同武田栄一、同井上正志の組合契約に基づく、その組合財産であり、従つて右四名の共有であつたことは被告横山丈三郎との間において当事者間に争いがない。
二、<証拠>によると、右一認定の組合清算人の地位にあるとする訴外金子直兄と、原告間において、昭和四二年一一月一三日本件建物につき、その建物内所在の工具備品一式を含め、代金二〇〇万円とした売買契約が締結されたことが認められ、これに反する証拠はない。
三、右売買契約の効力について
(一) <証拠>を総合すると、次の如き事実が認められる。
1 昭和四〇年二月頃、被告横山丈三郎、及び訴外武田栄一、同渡辺昭一、同井上正志間において、同人ら各自、金員その他を出資し、共同事業として自動車整備工場を経営する旨の協議が成立した。
2 右1の協議に基づき、右整備工場用建物建築の敷地として、原告所有の、山形市長町学筒合五四九番地の畑(その後宅地に地目変更)約六六一、一五平方米につき、昭和四〇年三月一八日、原告と、右1の四名(但し、契約書上は訴外武田栄一と、被告横山丈三郎がその代表者となり、)間において、建物所有を目的とした賃貸借契約が締結されその頃から同年九月頃までの間において、同地上に本件建物が建築された。
3 右2の本件建物建築費、その他、右共同事業に関し、右1の四名が出捐する金員の額につき、あらかじめ合意がなく、従つてそれは必要に応じ、その都度、都合のよい者において適宜、出捐する方法をとつていた。
4 昭和四〇年一〇月頃、自動車分解整備事業につき、所轄の陸運事務所の認可(右1の者を代表して被告横山丈三郎名義)があつたので、同年一一月頃から本件建物において右事業が開始され、その実際の経営は被告横山丈三郎において担当した。
5 昭和四一年六月初旬頃、右1の四名間において、右共同事業の形態を、有限会社組織に改変することについての協議がなされ、同月二五日同事業体を、有限会社長町自動車整備工場と称する、有限会社定款原案が作成され、同原案は同年七月五日、公証人により、定款としての認証を受けたが、以後その設立登記手続をせず、従つて右会社は設立されるに至らず、右原案は消滅した。
6 右5の有限会社の設立発起にあたつて、右1の四名の、会社における出資口数は、それ以前右共同事業につき各自が出捐した金品の額等をもつてこれに当てることにしたところ、従前の各自の出捐額の確定、とりわけ、被告横山丈三郎が主張する同人の口数三、一〇〇口を組成する、本件建物の現物出資(その口数二、五〇〇)が同被告によるものとすること等に関し、他の者から異論があり容易に協議が整わなかつたが、後日、再度協議し、改訂を図ることとし、一応、右5の如き定款を作成し、その認証まで得たが後日における右訂協議が成立しなかつたため、右5の如き、会社が成立されるに至らなかつた。
7 昭和四一年七月当時、右事業は経営担当者である被告横山丈三郎の経営経験の未熟、その他により業績が不振で、従業員に対する給料も、その支払が不能状態にあつたため右1の四名協議の結果、経営担当者を被告横山丈三郎から訴外渡辺昭一に変更したが、同年一一月末頃に至り、経営担当者の地位及び経営方針等に関し、右1の四名間に意見の対立が生じ、協議の結果、同年一二月一日から再び被告横山丈三郎が経営の担当を承継した。
8 右7の被告横山丈三郎の再度の経営担当後、同被告経営方法につき異論をもつ訴外渡辺昭一、同武田栄一は、依然右共同事案における業績が振わないこともあり、昭和四二年一月頃から、同事業体から脱退したい旨の意思を表明するようになつた。
9 右8の脱退意思表明後、その去就につき、度々協調が交された後、昭和四二年二月二八日右1の四名間において、訴外渡辺昭一、同武田栄一は、右共同事業体から脱退し、同事業は以後、被告横山丈三郎と、訴外井上正志により承継することとし、右両名は、右脱退者たる訴外渡辺昭一及び同武田栄一に対し、同訴外人らが右共同事業関与中、同事業に関し出捐したとする、右渡辺昭一については立替金一一三万円を、同年三月三一日と同年五月三一日に出資金六五万円を同年一〇月三一日に、右武田栄一については、出資金三〇万円を同年一〇月三一日に、それぞれ支払う旨の協議が成立した。
10 右9の協議成立の際、それにより、脱退者に対する各金員の支払につき、履行遅滞等の債務不履行があつた場合の措置、とりわけ、その場合、右脱退及び金員支払義務が既往に遡つて失効すること等については、なんら言及されず右1の四名は、いずれも、右の協議成立時に直ちに、右脱退及び金員支払義務の効果が発生する意思であり、特に訴外渡辺昭一と同武田栄一は同時に右共同事業体と無縁となり、以後右各員の支払を受けることのみ念頭にあつた。
11 右9の金員は、その各支払期日においていずれも支払われなかつたが、これにつきその間、訴外渡辺昭一、同武田栄一から被告横山丈三郎及び訴外井上正志に対し、右金員の支払請求はもとより、右債務不履行の結果、右9の脱退は所謂反古となり、同訴外人らは、いずれも右共同事業体の組織員たる地位に復帰したものである旨等の意思表明は、なされず、昭和四二年一一月二日頃、右訴外人らにおいて、弁護士皆川泉のもとに、右9の各金員支払方についての措置につき相談に赴いたことから、同弁護士において右訴外人らを代理しはじめて同日被告横山丈三郎及び訴外井上正志に対し、右9の脱退につき、右金員支払債務不履行を解除条件とする、解約告知がなされ、これは同月三日右被通知者に到達した。
12 昭和四二年一一月一一日訴外渡辺昭一、同武田栄一、同井上正志は会合し、右共同事業体を解散する旨の決議をし、同時に、その清算人として、訴外金子直兄を選任したが、右会合の開催につき、被告横山丈三郎は、その通知を受けなかつたため、右決議の事実を認識せず、以後同決議を承認していない。
(二) <証拠判断・省略>
(三) 右認定の事実によると、次の如き判断に到達する。
1 右(一)9の訴外渡辺昭一、同武田栄一の共同事業からの脱退は、民法六七八条所定の、所謂任意脱退に該当するものと認めるのが相当である。
しかして、民法上の脱退は、組合契約を将来に向つて解除する、所謂告知たる単独行為であるところ、右(一)9認定の脱退及びそれに伴う金員の支払に関する協議の際、これについて、右甲五号証が作成され、同号証の表題が契約書とされ、かつ、その内容は、合議により決定された旨の記載があるところから、訴外渡辺昭一、同武田栄一の右組合からの脱退は、民法上の脱退と異なる方式(組合契約の解除等)によるのではないかとの疑念をさしはさむ余地がある。しかしながら右甲五号証の記載全体の趣旨及び右(一)認定の脱退に至つた経緯、意思、脱退後における同訴外人らの態度等を総合すると、同訴外人らの脱退は右の如き民法所定の脱退と異なるものではないと認めるのが相当である。もつとも合意により右告知と同一の効力を有する解約をすることはもとより可能であるが、その場合の効果は、右民法上の告知と同一であるから、特に問題はないが、一般に組合契約はその特殊性から、民法の契約解除の通則は適用されないものと解すべきであるから、この点からしても、右脱退をもつて組合契約の所謂解除とみるのは適当ではない。右脱退に関し、右(一)9の如き被告横山丈三郎及び井上正志から脱退者に対する金員支払の約定は、脱退に伴う持分払戻しの額についての合意であるものと認めるのが相生である。
2 右1の告知は右(一)11の通知により昭和四二年一一月三日適法に撤回されたものと言うべきである。
甲六号証の一の右(一)11の解約通知にはその理由として、債務不履行の事実が記載されているが、告知たる意思表示の撤回については、一般的にその理由を要しないから、右事実の存否にかかわりなく、撤回は有効である。(仮にこれと異なる見解をとつても、右(一)11認定の如く被告横山丈三郎らにおいて、訴外渡辺昭一らに対する右(一)9の債務を履行していないから、同一結論となる。)また、民法五四〇条二項により、解除の意思表示は、これを取消(撤回の意である)すことはできないが、組合契約上法律行為に、同条を含めた契約解除の通則規定が適用されないことは、右1のとおりである上右撤回されたことにより生ずる法律関係の錯綜、混乱を避けるため設けられたものであるから、脱退の如き告知は、本質的にみてその適用外にある。従つて、脱退の意思表示の撤回は有効である。
3 解散の有無
(1) 組合が解散に至るのは、脱退等により残存組合員が一人に帰した場合の外、民法六八二条所定の事由と、組合員の解散請求及び、組合契約における特約、例えば解散決議により解散し得る旨等の合意の存在である。
イ 特約の存否
原告は、右組合は、解散の決議により解散したとして、民法所定の解散事由以外の事由を主張するが、本件において右組合契約上、それが決議により解解しうる旨の合意が存したことを認めるに足る証拠がないから、原告の右主張はこの点において失当である。
ロ 昭和四二年一一月一一日、訴外渡辺昭一、同武田栄一、同井上正志の三名が、右組合の解散の決議をしたことは、右(一)12認定のとおりである。しかして、解散についての、原告の主張を忖度、敷衍し、右の決議が他の解散事由に該るか否かにつき検討する。
(A) 解散請求につき
右請求は、脱退と同じく、所謂告知(将来効を有する解除)であり、その意思表示は組合員全員に対しなさなければならないところ、右解散決議は、右(一)12の如く被告横山丈三郎を除外した他の三名によりなされたが、それはその当時(少なくとも決議の日から本件建物につき売買契約が締結された昭和四二年一一月一三日までの間)右被告に告知されずそのため同被告は、その事実を認識しなかつたから、右決議をもつて解散請求と同一視するとしても、その意思表示は、被告横山丈三郎に到達していないものと言うべきであり、従つて、その段階(右売買契約時)において、右解散請求は、その効力を生じていない。
(B) 目的たる事業の成功または、その成功の不能事由の存否。
この点については、原告の、主張、立証がない。
(2) 右(1)イ、ロの認定によると、右組合は、昭和四二年一一月一一日(解散決議の日)当時、解散していなかつたものと言うべきである。
4 清算人選任の効力
清算は、組合が解散に至つた場合、法律上当然生じ、解散がないのに清算が開始されることのないのは、理の当然である。ところで、右組合は右3の如く、未だ解散していないから、その清算問題を生ぜず、従つて右(一)12の清算人選任行為は無効である。
5 訴外金子直兄の代理権限の有無
清算人は、解散した組合の財産関係を整理することを職務とし、その職務執行上は各組合員の代理人たる地位を取得する。しかして、右4の如く、清算人選任行為は無効であるから、、清算人として選任された、訴外金子直兄は、右組合の組合員の代理人たる地位にない。
(四) 以上1ないし5を要約すると、訴外渡辺昭一、同武田栄一は右組合から一たん脱退したが、後これが撤回され、組合契約は旧に復した。その後、被告横山丈三郎以外の組合員において、組合解散の決議をしたが、同決議は無効であり、現に右組合は、解散に至つていない。従つて右解散決議に伴い、その清算人として同時に選任された訴外金子直兄は、清算人たる地位にない。
(五) 右の如く、清算人として、組合員の代理人でない、訴外金子直兄と、原告間において締結された、右二の、本件建物に対する売買契約は無権代理人の行為として、無効である。
四、右の認定によると、本件建物は、右組合員の共有に属し、原告は、その所有者ではない。
五、従つて、本件建物につき、右組合員から、売買により、その所有権を取得したとし、この所有権に基づいた、その妨害排除として、被告横山丈三郎に対し、同建物の明渡し及び不法占有を原因とした損害賠償を求める原告の各請求は、いずれも失当たるを免れない。《後略》(伊藤俊光)